本作は、思い通りの生き方ができず、いつしか心に孤独を抱えてしまった30代女性と、自分を彼女の恋人だと信じて疑わない猫との関係を描いた、ちょっと不思議な物語。ファンタジーなテイストながら、私たちが日々生きるこの世界に新しい光を当て、より自分らしく生きるヒントをくれる・・・そんなハートウォーミングで心揺さぶる作品だ。
メガホンを執ったのは少女漫画史に輝く名作「グーグーだって猫である」の映画版・ドラマ版を手掛け、「猫を撮らせたら日本映画界随一」と言っても過言ではない猫映画の名手、犬童一心監督。空前の猫ブームを迎えている昨今、“人の世界”と“猫の世界”を思いもよらぬ手法で混在させた本作は、人と猫の心の繋がりを繊細に、そして温かく描き出している。
そんな犬童作品に「いつかは出演してみたかった」と、今回の出演オファーを即決したという主演の沢尻エリカ。「ヘルタースケルター」や「新宿スワン」で見せた“強い女性”像から一転、本作「猫は抱くもの」では、自分をうまく表現できず思うように生きられない30代女性のもどかしさを、繊細に表現。大胆な演出手法で“人の世界”と“猫の世界”、そして“一人の女性の内面の世界”を縦横に交錯させた世界は、沢尻いわく「まったく新しいチャレンジ」だそう。ダンス&歌唱シーンもみどころで、まさに6年ぶりの主演作にふさわしい、表現者として新境地を見せた作品となった。
沢尻エリカコメント
Q.今回、犬童監督から主演のオファーを受けられた際、どのように思われましたか?
「監督とは、私が「へルタースケルター」(2012)に出演した翌年、日本アカデミー賞の授賞式で初めてお目に掛ったんです。その際にお話しさせていただいた印象が強く残っていて。いつかお仕事でご一緒できたらいいなと、ずっと思っていました。ですから今回のオファーをいただいたときは、ほぼ即決でしたね。自分の中に、犬童監督への絶対的な信頼感みたいなものがあったので、自分の直感を信じようと思いました。」
Q.主人公・大石沙織は元アイドルで、今はスーパーのレジ係をしている女性です。演じるにあたって意識されたこと、準備されたことはありましたか?
「事前に準備するというよりは、実際に現場に立ってみて、そこで感じたことをもとに、役を作りあげました。沙織を演じてすごく感じたのは、すごく多面的なキャラクターだなということ。彼女は過去にアイドルとして挫折していて、その経験から逆に、自分というものをうまく出せなくなっている。でも芯の部分には「本当はこういう風に生きたかった」という強い想いも抱えている。沙織が心に抱えているもの自体は、実は多くの人たちと共通しているんじゃないかなとも感じました。」
Q.本作が初タッグとなる犬童監督の演出はいかがでしたか?
「すごく、やりがいがありました。全編が今まで経験したこともない撮り方ばかりでした。舞台上で撮るシーンと実景シーンが混在していて、「人の世界」と「猫の世界」が入り混じっていたので、演じ分けが大変でしたけれど、全力投球でやりきるしかないなと(笑)。自分の限界を決めず、監督の演出のもとでどこまでいけるか挑戦できたと思います。」
Q.主人公・沙織にとって、愛猫(良男)はどのような存在だと?
「たぶん沙織は、いろんなことに対して不器用な女性だと思うんです。周囲に対して自分をうまく出せないし、そういう自分にもどかしさを感じている。彼女にとって良男は、そういう「好きになれない自分」のすべて引っくるめて受け入れてくれる、最大の理解者なんじゃないかな。人間の恋人とはちょっと違うのかもしれないけど・・・なくてはならない存在。これはペットに限った話ではなく、何かと良い関係で日々を過ごすことって、人にとって大事だと思うんですね。仕事で悩んだとき恋愛で悩んだとき、すべてを受け入れてくれる存在がいてくれること。自分を癒し、ハッピーにしてくれるものを、心から大切にすることって、素敵だなと。この映画に出演して、考えたりしました。」
犬童監督コメント
Q.クランクアップを迎えた、現在の想いを教えてください
「沢尻エリカさんの魅力と実力を実感できました。名作「ヘルタースケルター」を見た私は、その沢尻さんの演技に感じ入り、アカデミー賞の授賞式の日に樋口真嗣監督とともに沢尻さんにその感動を伝えに行きました。いつか一緒に作品をという下心があったのは当然です。沢尻さんはその時のことを覚えていてくれました。自分の下心に感謝です」
Q.作品に込めた想いを教えてください
「うまくいかないことの輝き、置いてきぼりを食らっている時間の魅惑。成功への希求ではなく、積極的な諦めを選んだ時にこそ踏み出せる一歩、その爽快さ。元アイドルの沙織が自分を見つめ、未来への答えを探す最中、揺れる心のダイナミックな動きを、映画の遊びと、演者たちの魅力でエンターテインメントにしていきたい。そして、究極の相棒「猫」、その存在の大きさを表現したい。世代や年齢に関係なく楽しめる、人生の絵本を描いてみました」