古き良き作品を圧倒的な極彩色と、心に響くこだわりの曲で次世代へ想いを伝える
2014年11月29日に公開される映画『くるみ割り人形』を前に、今回初監督を勤め上げた原宿kawaiiカルチャーの第一人者、増田セバスチャンと、雑誌KERAや自身のファッションブランドを持ち独自のkawaiiを型にする紅林大空が夢の対談をおこなった。
2014年11月29日に公開される映画『くるみ割り人形』を前に、今回初監督を勤め上げた原宿kawaiiカルチャーの第一人者、増田セバスチャンと、雑誌KERAや自身のファッションブランドを持ち独自のkawaiiを型にする紅林大空が夢の対談をおこなった。
●紅林「まず、映画を作るきっかけについてお伺いします」
増田「今回、サンリオが1979年に製作した“くるみ割り人形”の原盤のフィルムが見つかり、その保存状態がすごく良かったので、現代の映画として蘇らせるプロジェクトが立ち上がって、デジタル変換をしている時にプロデューサーチームから“増田セバスチャンだったらこれをどういう風に世の中に出すか”っとオファーがきたのがきっかけでした。昔、僕が住んでいた松戸にサンリオ劇場があって、よく観に行っていた思い入れもあった作品で、でも当時は人形がチョコチョコ動いて、すごく怖かったイメージが強烈だったんですよね。でも今回お話を頂いたときも、僕個人はそのままのくるみ割り人形で良いと僕は思っていたところもあったし、原作ファンにもガッカリしてほしくなかったし。だけど現代の子たちにも訴えかけられる作品を自分の手で作れる、そんなチャンスは二度と無いので、とすごく悩みました。僕自身、旧作をリスペクトしている分、どうやってリ・クリエイションしようかと。原作のように、不思議で、怖くて、でもなぜだか心に引っかかる、そういう部分は絶対に大切にして、それでいて増田セバスチャンだから出来る作品をするにはどうすればいいか考えました。
そこで、まずはじめに脚本を読ませてもらって。そこでこのくるみ割り人形という作品の一番最初の脚本は寺山修司さんが手掛けたという事を知って、かなり驚きました。10代の頃僕が影響を受けた寺山さんが関わってた作品だったというこの運命的な巡り合わせで、これはもう自分がやる仕事だと思い引き受けました。
最初の脚本で子どもに対してやや刺激的すぎる表現が多かったところを、サンリオの辻社長が表現をやわらかくして、その当時の子ども達に分かりやすくなるように脚本の改変をしたのが旧作の脚本です。本物の脚本には、当時修正を加えた部分に赤線が引いてあって、それも全部見る事ができることにも感動しました。それら資料を全てを観て、じゃあこれを現代の人々の心に届けるならば、寺山修司の持つ言葉の強さも活かしつつ、それを一度自分の中で落とし込んで脚本も作り替えよう、というところから、この作品はスタートしていきました。
そこから旧作の映画を何回も観直して編集をしていきました。この最初の組み立てが一番時間がかかったんですよね。ヴィジュアルを作り込んでいくのは得意なので、わりと自分の中ではどういう風に出来上がるかというの分かっていたのだけれど、やっぱり現代にリ・クリエイトするにあたって、根幹をバシッと見せたいという気持ちがあったので、脚本と編集に時間を費やしました。映画の冒頭で婆やが語りかけるシーンは、実は旧作にはなく今回新たに作ったシーンで、最初からこう始めようと決めていたシーンのひとつです。」
●紅林「寺山修司さんの元の脚本から一番印象的で、そのまま使用した部分や、見どころは?」
増田「繰り返し出てくるセリフで、「目をつぶると見えて、目を開けると消えるもの」は寺山さんの脚本にあったけど旧作には反映されなかった言葉で、今回キーワード的な要素として作品に入れこみました。
映画は3D作品になるとの事が決まっていたので、過去の3D作品を観て勉強して、その時自分がやるならどうしようかなと研究しました。過去の作品は何かがガーッと飛び出してくる迫力やリアリティを求めるものが多いけれど、僕がやりたいのはこれではないなと思っていて。「カワイイ」のように、自分だけの小宇宙を閉じ込める世界観が僕らしいなって。それを3Dで表現するとどうなるかというと、箱庭の中に顔を突っ込るような、小さな世界に入り込んで行くような3D表現になりました。」
●紅林「なるほど、だから音楽とかも遠近感があって、これは3Dで観ないと分からないなと劇場で思ったんですよね。」
増田「そうそう。曲に関しては音楽家の松本さんとすごい時間をかけて作っていったので、音はすごくこだわっているところの一つ。めちゃくちゃ細かい。」
●紅林「ボーカロイドを導入すると決めたのは?」
増田「松本さんが、ボカロとかやってみると言っていて、松本さんは譜面だけでオーケストラを書けるし感覚的な事もわかる天才肌の人で、自分だったらこういう風にボカロを使える、増田セバスチャンが3Dにチャレンジしたみたいに、自分もチャレンジしてみたいと言ってくれて。それが面白いと思って、どういう仕上がりになるか不安だったけど、出来上がって来たらすごく面白くて、それでGOがでた感じ。楽器として声を使ったという感じですね。
音楽は、まず僕がリクエストを出して、松本さんから断片的に音が送られてきて、それをあーだこーだ言いながらやりとりしていってって…どうしてもビジュアル的に頭の中を共有する作業が必要で、そこの作業もちょっと時間がかかって大変だったけど、全部がすごく刺激的で、松本さんがどんどん僕の想像を超えてくれて、結果ずっと良い音楽が聞こえる映画になったと思っています。」
●紅林「“涙が ダイヤのように落ちてくる”という表現は、よく使われる表現だと思うんですが、それが実際に映像になって本当にポロッて出てくるんだって、“涙”が出て来たシーンはすごくビックリしたんです。ナチュラルに周りの背景の色とかもなじんでいて、私が死ぬ前に思い出す1コマだなって思いました。“涙”がポロっと出て来たのが感動的で、しかも色がクリアでしたが、他の色だったらどうなっていたんだろうと頭をかすめたんですが。」
増田「確かに涙の表現は10種類くらい作って、その中から最終的にクリアになって。何回もダメだししたね。水色とか透明とか、すごく大粒なものとか本当に色々あった。跳ね方にもこだわりました。」
●紅林「今回の映画で、自分がこだわってすごく好きになった部分とか、教えて下さい。」
増田「旧作をリ・クリエイトしてスクリーンで上映するという事もあって、最初に旧作を観直した時、まるで舞台を観ているような感覚だったんですよね。この時これは映画ではなく舞台を作ろう! っと思った。映像の中で舞台を作ろうと思って、声のキャストもかなり豪華だと思うけれど、実は映ってはいないけれどスタジオの中で、演技指導をしていて、一緒に身振り手振りをしながら声を吹き込んでいって。これは舞台だからといってみんなにお願いして、それを何回も繰り返して映像と声を重ねていって、だから思っているより声が馴染んでいる作品が出来上がったと思ってます。ヴィジュアルの仕掛けだったり、舞台の書き割りっぽいものにしたり、自分のテリトリーで作品を作ることを考えて、映像かもしれないけれども、舞台を作ろうと思ってとりかかったんです。」
●紅林「自分のできる事を最大限に発揮出来る映像を作ったという事ですね?」
増田「そうだね。そっちの方が強みかなと思ったので。」
●紅林「極彩色へのこだわりは?」
増田「旧作を観た時に、色とかも本当はぼやけた感じだけど、僕の目にはカラフルに映っていて、だからこれをやれば良いんだと思って、そのまま再現した感じです。」
●紅林「完全にイメージがあったんですね。」
増田「そう。心の中のカラーは浮き上がっていたから、それを持ち上げれば完成すると思ったんです。たとえば人形使いのシーンは色がたくさんのっていた思うけれど、後からすごく細かい作業で付け足してあの色を表現してる。細かな指示書を作って、さらに色も「このシーンは夜だけど、昼はこういう色のキノコで、夜は発光してると思ってほしい」みたいにスタッフにお願いしてイメージしてもらって。あとは“愛の舞”と呼んでいる追加シーンは、作中に出てくる蝶々とか月とかは立体でまず製作した後に撮影したものを使っているので、そこもこだわった所ですね。
数年前、外ではどこまで自分の力が通用するのかどうか、チャレンジしてみたくて、原宿だけじゃなくて外の世界で生きる事を決めたんだんです。だから今は世界に向けて、原宿で作って来たものや影響を受けた物をそのまま出していってるという感じですね。
アーティストとして物を作る以上、いつでもリスクを背負おうと思っていて、本当だったら原宿にいれば有名だったかもしれないけれど、そうではなく次に続く人たちもいるので、そういう意味では自分が先陣をきってリスクを背負おうと思ってる。でもそれも長くは出来ないと思っているから、「とりあえず東京のオリンピックまでは頑張ろう」と自分の中では決めて頑張ってますね。」
●紅林「今後、映画以外に、やりたい事は今ありますか?」
増田「今回のこの『くるみ割り人形』を作って、映画を作る事が面白いなって思ったので、またチャンスがあったら、何本か作っていきたいなと思ってます。もちろん舞台も好きなので、舞台はいつか絶対に作りたい。原宿ファッションに興味がある人でも、着れない人ってたくさん居ると思うし、でもこのカルチャー自体面白いと思ってくれる人はいっぱいいるじゃないですか?最近は「原宿は派手だったら良いんでしょう」と勘違いする人も多いけれど、実はカラフルなものへ行き着くまでの理由だったりプロセスがちゃんとあって、そこを含めて全部がこのカルチャーなんです。僕はそういったものを舞台だや映画、アート作品に置き換えて、作品を通して翻訳しているつもり。だからそういう意味では、どんなジャンルだとしてもたくさん作品を作っていきたいと思ってます。」
●紅林「もし次回作るとしたらどんな映画を作りたいですか?」
増田「色んな作品を観ている中で、日本でファンタジー作品を作れる人が少ないなと感じていて。あ、本当の意味でのファンタジーね。だから僕は世界中で通用するファンタジー映画を作りたいですね。原宿で活動していて、女の子達がいろいろ苦しみながら成長していく姿を見ているので、そういうのを主題にしながらファンタジーの世界が作れたら面白いかも。」
●紅林「最後に、もし私と形になる“なにか”をコラボするとしたら、どんな事が出来ると思いますか?」
増田「なんでも出来るとは思う。やっぱり時代を動かすのって若い世代だと思っているから、そこに石を投げれるような事を一緒にやってみたいですね。小さいものをコラボしましたじゃなく、紅林さんが先頭に立って何かが出来るような事をできれば。
実は今、世界を巻き込むアート作品を考えていて。そういうのにも参加してほしいし。自分たちもそうだったように、時代はいつも若い世代が作っていくから、だからそういう意味では先に生きている大人として、道筋を作る事も役割だと思ってます。そこからはみんなが新しい時代を突き動かすもの、そういう物が生まれてほしいですね。
それが一つ映画というものを通してでも良いし、なんか色んな事が出来ると思います。」
●紅林「有難うございます。くるみ割り人形という作品を皮切りに、これからもどんどんkawaii文化を発信していくと、これらも夢を下さい!! 自分でも掴みにいきますので!!」
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